19341213致山本初枝
341213致山本初枝
    拝啓 御手紙は拝見致しました。私は先月から三週間程每晚熱が出てやすんで居ました。今にはなほって来ましたがとうとうィンフルェンザかつかれか、わからなかった。それで大変久しく御無沙汰致しました。家內と子供とは皆達者です。須藤先生の教へに従って子供に魚肝油をのましたら頗るこえて重くなって来たのです。古い『古東多万』をば私は持って居たのですが今日探したら見えませんでした。私は一度読むまい本などを北京へ送った事があったのであの時に送って仕舞ったのだと思ひます。佐保神の語源はどぅも支那にあるらしくない。支那には花、雪、風、月、雷、電、雨、霜などの神の名があるけれども春の神の名は私は今まで知らない。或は春の神は支那にないかも知れません。『万葉集』には支那から行った言葉が随分あるのでせう。しかしその為めに漢文を勉強すると云ふ事には私はどうも成出来ません。『万葉集』時代の詩人は漢文を使はせておかしてもよいが今の日本の詩人は今の日本語を使ふべしだ。そうでなければ何時までも古人の掌から出る事が出来ない。私は漢文排斥と日貨販売の専門家だから、この点についてはどうしても貴女の御意見と違ひます。近頃私共は漢字廃止論をとなへて大にあちこち、しかられて居ます。上海には雪は未降りませんが不景気は矢張不景気です。倂し一部分の人間は不相変よろこんで居るらしい。私の向ふの家には每日朝から晚まで猫がくびしめられる様な声の蓄音機をやって居ます。あんな人物と近く居ると一ケ年でもたつと気違になるのだらう。どうも困った処です。今度東京に又限定版つくりの団体が出来ました。三四年前にもこんな事があったので私も入会しましたがとうとうくづれて何の結果もありませなんだ。だから今度は左程熱心でなかったのです。
迅 拝 十二月十三日
山本夫人几下
译文
    拜启:惠函奉悉。自上月起,我每晚发热,大约休息了三个星期,现在已好转,始终未查明是流行感冒还是疲劳,以致久疏问候。内人和孩子均健康。已按须藤先生的嘱咐,给孩子吃鱼肝油,体重增加不少,也胖了一些。我原有旧的《古东多万》,今天找了一下,却没找到。我曾把用不着的书寄到北京,可能那一次寄走了。佐保神的语源,中国好像没有。中国有花、雪、见、月、雷、电、雨、霜等神的名字,但春神至今尚未听说过。或许中国没有春神。《万叶集》里有不少从中国传去的语汇罢?但因此就学汉文,我却不以为然。《万叶集》时代的诗人用汉文就让他用去罢,但现在的日本诗人应该使用当代的日语。不然,就永远也跳不出古人的窠臼。我是排斥汉文和贩卖日货的专家,关于这一点,怎样也是跟你不同的。最近我们提倡废止汉字,颇受到各方的责备。上海尚未下雪,但不景气依然如故,然而有些人似乎依旧很快活。我对面的房子里,留声机从早到晚像被掐住了嗓子的猫似地嘶叫着。跟那样的人作邻居,呆上一年就得发疯,实在不好受。最近东京又成立了限定版的团体。三四年前也曾有过同样的事情,我也参加了,但终于垮台,毫无结果。因此这一次我就不这么热心了。
迅 拜 十二月十三日
山本夫人几下
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